雪
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
作者と作品について
- 作者
三好 達治(みよし たつじ)
1900年(明治33年)~1964年(昭和39年)
大阪府大阪市生まれ
- 作品
「雪」は詩集『測量船』に収められています。
国語の授業などで、だれもが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
たった二行の、やさしい言葉でつづられた詩ですが、不思議と情景が目に浮かびます。
ひややかにふりつむ雪。しっとりと重くなる屋根。広大な夜空。
そして、家のなかの温かさ、太郎と次郎のまるい頬、枕にこぼれる寝息。
等々……。
この詩について、詩人の高田敏子さんは、次のように解釈しています。
この詩のできた動機は、もちろん雪景色を見たことからでしょう。
(中略)
詩人の心は、その感動をうけとめたところからさらにのびて、見えない部分まで見る、思うことで、美しい詩となったのです。
「あの家の中では、いまごろ母親が子供を眠らせているのではないだろうか」
「子どもが寝いったあと、母親はほっとして縫物をひろげているのではないだろうか」
このように、家の中の様子を思うことで、「太郎を眠らせ」「次郎を眠らせ」ということばが生まれたのでしょう。『詩の世界』より
高田敏子さんの仰るとおり、作者の三好達治は、雪景色に点在する屋根を見て、目には見えない家の中の様子を思いやることによって、この詩を生み出したのかもしれません。
だから私たちも、この詩を見ているだけで、そこには書かれていないものまで想像してしまうのかもしれませんね。
作者の想像力によって作られた詩に、読者がさらに想像力でもって答えていく。
そこに、詩のよさがあるのかもしれません。