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金子みすゞ 「山茶花」「郵便局の椿」「積もった雪」「淡雪」(『金子みすゞ全集』より)

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山茶花

居ない居ない
ばあ!
誰あやす。

風ふくおせどの
山茶花さざんかは。

居ない居ない
ばあ!
いつまでも、

泣き出しそうな
空あやす。

郵便局の椿

あかい椿が咲いていた、
郵便局がなつかしい。

いつもすがって雲を見た、
黒い御門がなつかしい。

ちいさな白い前かけに、
赤い椿をひろっては、
郵便さんに笑われた、
いつかのあの日がなつかしい。

あかい椿はられたし、
黒い御門もこわされて、

ペンキの匂うあたらしい、
郵便局がたちました。

積もった雪

上の雪
さむかろな。
つめたい月がさしていて。

下の雪
重かろな。
何百人ものせていて。

中の雪
さみしかろな。
空も地面じべたもみえないで。

淡雪

雪がふる、
雪がふる。

落ちては消えて
どろどろな、
ぬかるみになりに
雪がふる。

兄から、姉から、
おととにいもと、
あとから、あとから
雪がふる。

おもしろそうに
舞いながら、
ぬかるみになりに
雪がふる。

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作者と作品について

  • 作者

金子 みすゞ(かねこ みすず)
1903年(明治36年)~1930年(昭和5年)
山口県生まれ

  • 作品

冬に咲く花の詩と、それから雪の詩です。
(「郵便局の椿」は、春の詩と言えるかもしれないけど、こちらに置かせていただきますね)

「山茶花」は、山茶花が泣き出しそうな冬空を「いないいないばあ!」といって、あやしているのが印象的です。
山茶花は寒空でもパッと笑うように咲いて、ほんとうに赤ん坊をあやしているみたいです。

それから、「郵便局の椿」は、みすゞさんの生家の斜め向かいにあった郵便局のことを歌っているそうです。
今はもうない赤い椿と、ペンキの匂いのする新しい郵便局の対比が、切ないです。

「積もった雪」は、上の雪と、下の雪と、中の雪の、それぞれが抱えているかなしみに対して、思いやりの言葉をかけているのが、身に沁みます。
おそらく、世界には中の雪のような人が大多数かと思うのですが、その人たちのかなしみって、目立たないんですよね。
中の雪のかなしみにも、目を向けていることに、はっとさせられます。

「淡雪」は、楽しい響きの詩なのに、なぜか切ないです……
淡雪はぬかるみになって消えていく定めなのに、あとからあとから、おもしろそうに舞いながら落ちていくんですね。
「兄から、妹から、おととにいもと」というのは、淡雪を兄妹に例えているのでしょうか。
その例えが、淡雪をいっそうにぎやかに感じさせます。

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