朝はゆめむ
ところもしらぬやまざとに
ひまもなくさくらのはなのちりいそぐを
いろあはきさくらのはなのひまもなくななめにちるを
あさはゆめむ
さくらのはなのただはらはらとちりいそぐを
はらはらとはなはひそかにいきづきてかぜにみだれてながるるを
やみてまたそのはなのはつかにちるを
さくらのはなのかくもあはれにちるをゆめみしあさのゆめ
めにさやか――
またみづよりもしめやかにこころにしみてわすれがたかり
わきてこはかやのすそはやひややかにほにふるる
うらぶれしあきのあさなれば
ゆめさめてわれはかなしむ
ゆゑしらぬとほきひのなげかひのいやとほきはてのなごりを
作者と作品について
- 作者
三好 達治(みよし たつじ)
1900年(明治33年)~1964年(昭和39年)
大阪府大阪市生まれ
- 作品
「朝はゆめむ」は、詩集『故郷の花』に収められています。
さくらが描かれているため、もしかしたら春の詩と思う方もいるかもしれませんが、実は秋の詩。
桜の散る夢から目覚めた秋の朝に、その余韻を歌ったものです。
(12行目にも、「あきのあさ」とあります)
同じような、ひらがなだけで書かれた季節外れのさくらの詩に、新川和江さんの「ふゆのさくら」があります。
ひらがなの柔らかさは、さくらにぴったりだと思います。