時無草
秋のひかりにみどりぐむ
ときなし草は摘みもたまふな
やさしく日南にのびてゆくみどり
そのゆめもつめたく
ひかりは水のほとりにしづみたり
ともよ ひそかにみどりぐむ
ときなし草はあはれ深ければ
そのしろき指もふれたまふな
秋の終り
君はいつも無口のつぐみどり
わかきそなたはつぐみどり
われひとりのみに
もの思はせて
いまごろはやすみいりしか
夜夜冷えまさり啼くむしは
わが身のあたり水を噴く
ああ その水さへも凍りて
ふたつに割れし石の音
あをあをと磧のあなたに起る
幾日逢はぬかしらねど
なんといふ恋ひしさぞ
作者と作品について
- 作者
室生 犀星(むろう さいせい)
1889年(明治22年)~1962年(昭和37年)
石川県金沢市生まれ
- 作品
「時無草」「秋の終り」は、詩集『抒情小曲集』の第二部に収められています。
第二部には、秋から冬にかけての詩が流れるように続いているため、この季節に浸りたい人にはおすすめです。
『抒情小曲集』は、青空文庫やKindleなどでも、気軽に読むことができます。
「時無草」や「秋の終り」は、合唱曲にもなっているので、もしかしたらご存知の人もいるかもしれませんね。
犀星の詩は、読んでいるだけでも、歌が聴こえてきそうな詩だと思います。
(「時無草」は、磯部俶さんの作曲。
「秋の終り」は、多田武彦さんが作曲しています。)