初恋
まだあげ
前にさしたる
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
人こひ
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の
君が
林檎畑の
おのづからなる
問ひたまふこそこひしけれ
作者と作品について
- 作者
島崎 藤村(しまざき とうそん)
1872年(明治5年2月17日)~1943年(昭和18年)
岐阜県生まれ
- 作品
「初恋」は、詩集『若菜集』に収められています。
国語の教科書などでも、おなじみの詩ですね。
ところで、久々に読み返したのですが、初恋というにはあまりにも色っぽい詩です。
1連目の「まだあげ初めし前髪の」は、「日本髪を結い始めたばかりの前髪」という意味。
当時の少女は、12~3歳くらいで、髪を結う習慣がありました。
少女が髪をあげたばかりだと、少年が知っているということは、二人は林檎畑で出会ったのではなく、元々幼なじみだったのでしょうか。
3連目の「わがこゝろなきためいきの/その髪の毛にかゝるとき」という句は、「僕が思いがけずこぼした溜息が/君の髪の毛にかかるとき」というような意味なのですが、溜息が髪にかかるなんて、かなりの至近距離です。
そして、4連目の「林檎畑の樹の下に/おのづからなる細道は」は、林檎畑で出会いを重ねるために通ったところに、自然とできた細い道のこと。
「誰が踏みそめしかたみぞと/問ひたまふこそこひしけれ」は、「あれは誰が踏みしめてできた道なのでしょうと/君が問いかけるのが恋しくてならない」という意味ですが、こんな風に問いかける少女に、あどけなさというよりも、男心をくするぐような色香を感じます。
「初恋」は、さまざまな解釈や訳し方ができる詩だと思います。
詩集『若菜集』は、当時の若者に熱狂的に受け入れられたそうですが、その一因として、このように自由な恋愛を歌っているということもあるかもしれません。