山村暮鳥 「りんご」「赤い林檎」(詩集『雲』より)

りんご

兩手をどんなに
大きく大きく
ひろげても
かかへきれないこの氣持
林檎が一つ
日あたりにころがつてゐる

赤い林檎

林檎をしみじみみてゐると
だんだん自分も林檎になる

おなじく

林檎はどこにおかれても
うれしさうにまつ赤で
ころころと
ころがされても
怒りもせず
うれしさに
いよいよ
まつ赤に光りだす
それがさびしい

おなじく

こどもはいふ
赤い林檎のゆめをみたと
いいゆめをみたもんだな
ほんとにいい
いつまでも
わすれないがいいよ
大人になつてしまへば
もう二どと
そんないい夢は見られないんだ

作者と作品について

  • 作者

山村 暮鳥(やまむら ぼちょう)
1884年(明治17年)~1924年(大正13年)
群馬県生まれ

  • 作品

「りんご」と「赤い林檎」の連作は、詩集『雲』に収められている作品です。

「赤い林檎」の連作は、本来は14編の小さな詩が並んでいます。
ここでは冒頭の1編と、他2編を紹介しています。
私は「赤い林檎のゆめをみた」という詩が、とても好きです。

ところで、この詩集『雲』は、暮鳥が病床で編集したものです。
すでに校了されたあとに、暮鳥がどうしても挿入して欲しいと、切に頼んだ詩があります。
それが、この詩。

赤い林檎

おや、おや
ほんとにころげでた
地震だ
地震だ
赤い林檎が逃げだした
りんごだつて
地震はきらひなんだよう、きつと

この前年の大正12年に、関東大震災が起こっています。
この詩にこだわった暮鳥の心情は図り知れません。

暮鳥は茨城県の海側にある、大洗町で亡くなられています。
もし現代の東日本大震災を見たなら、どう感じるのでしょう。

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