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室生犀星 「夏の朝」「砂山の雨」「蝉頃」(詩集『抒情小曲集』より)

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夏の朝

なにといふ虫かしらねど
時計の玻璃のつめたきに這ひのぼり
つうつうと啼く
ものいへぬむしけらものの悲しさに

砂山の雨

砂山に雨の消えゆく音
草もしんしん
海もしんしん
こまやかなる夏のおもひも
わがみなうちにかすかなり
草にふるれば草はまさをに
雨にふるれば雨もまさをなり
砂山に埋め去るものは君が名か
かひなく過ぐる夏のおもひか
いそ草むらはうれひの巣
かもめのたまご孵らずして
あかるき中にくさりけり

蝉頃

いづことしなく
しいいとせみの啼きけり
はや蝉頃となりしか
せみの子をとらへむとして
熱き夏の砂地をふみし子は
けふ いづこにありや
なつのあはれに
いのちみじかく
みやこの街の遠くより
空と屋根とのあなたより
しいいとせみのなきけり

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作者と作品について

  • 作者

室生 犀星(むろう さいせい)
1889年(明治22年)~1962年(昭和37年)
石川県金沢市生まれ

  • 作品

「夏の朝」「砂山の雨」「蝉頃」は、詩集『抒情小曲集』に収められています。

詩集の覚書によると、「砂山の雨」が作られたのは、金沢市より二里ほど隔てた海辺の町、金石かないわ
ここでは他にも、海にまつわる詩がいくつも作られています。

そして、「蝉頃」が作られたのは東京。

本郷の谷間なる根津の湿潤したる旅籠にて「蝉頃」の啼く蝉のしいいといへるを聞きて

という一文が、覚書にあります。
この詩で犀星は、せみの子をとらえようとした少年の自分を、懐かしんでいます。

ところで犀星の詩は、小さな生き物に慈しみの目を向けている詩が多いです。
「夏の朝」も、そんな詩ですね。

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