切なき思ひぞ知る
我は張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。
我はその虹のごとく輝けるを見たり。
斯る花にあらざる花を愛す。
我は氷の奥にあるものに同感す、
その剣のごときものの中にある熱情を感ず、
我はつねに狭小なる人生に住めり、
その人生の荒涼の中に呻吟せり、
さればこそ張り詰めたる氷を愛す。
斯る切なき思ひを愛す。
作者と作品について
- 作者
室生 犀星(むろう さいせい)
1889年(明治22年)~1962年(昭和37年)
石川県金沢市生まれ
- 作品
「切なき思いぞ知る」は、詩集『鶴』の冒頭に収められています。
犀星の冬の詩というと、私がまっさきに思い出すのがこの詩。
冬のことを特に歌っている詩ではないのですけど、精神的に冬を思い起こさせる詩なのでしょうか。
凜とした氷のなかにある、虹や花のような儚い美しさと熱情が、張り詰めた漢文調のことばからも感じられます。
犀星は雪深い金沢で生まれ、すぐに養子に出されるという、複雑な過去があります。
「雪降れど霰凍れども故郷の冬は忘れがたかり。
」
ということを、詩集『抒情小曲集』でも述べています。
そんな故郷への切ない思いも、この詩にはこめられているのではないかと、想像しています。