冬
木に眼が生って人を見ている
冬
悲しく投げやりな気持でいると
ものに驚かない
冬をうつくしいとだけおもっている
冬日
冬の日はうすいけれど
明るく
涙も出なくなってしまった私をいたわってくれる
霜
地はうつくしい気持をはりきって耐らえていた
その気持を草にも花にも吐けなかった
とうとう肉をみせるようにはげしい霜をだした
冬
葉は赤くなり
うつくしさに耐えず落ちてしまった
地はつめたくなり
霜をだして死ぬまいとしている
お化け
冬は
夜になると
うっすらした気持になる
お化けでも出そうな気がしてくる
冬
ながいこと考えこんで
きれいに諦めてしまって外へ出たら
夕方ちかい樺色の空が
つめたくはりつめた
雲の間に見えてほんとにうれしかった
梅
眼がさめたように
梅にも梅自身の気持がわかって来て
そう思っているうちに花が咲いたのだろう
そして
寒い朝霜ができるように
梅自からの気持がそのまま香にもなるのだろう
作者と作品について
- 作者
八木 重吉(やぎ じゅうきち)
1898年~1927年
東京生まれ
- 作品
「冬」(4編)と「冬日」「霜」「お化け」「梅」は、第二詩集『貧しき信徒』に掲載されています。
「春」という題の詩がいくつかあるのと同じく、「冬」という題の詩も多いです。
そして、「冬(木に眼が生って…)」のような一行詩も、何編かあります。
重吉は1926年に結核と診断されて、病の床で第二詩集を編集しています。
そして、詩集が世に出るのを見届けることなく、亡くなります。
生と死を見つめ切った珠玉の詩に触れるたび、心打たれます。
冬をテーマにした詩は、余計にそうですね。