椰子の實
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の實一つ
故郷の岸を離れて
汝はそも波に幾月
舊の樹は生ひや茂れる
枝はなほ影をやなせる
われもまた渚を枕
孤身の浮寢の旅ぞ
實をとりて胸にあつれば
新なり流離の憂
海の日の沈むを見れば
激り落つ異郷の涙
思ひやる八重の汐々
いづれの日にか國に歸らむ
作者と作品について
- 作者
島崎 藤村(しまざき とうそん)
1872年(明治5年2月17日)~1943年(昭和18年)
岐阜県生まれ
- 作品
「椰子の實」は、詩集『落梅集』に収められています。
歌曲として、この詩を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。
1898年(明治31年)の夏、藤村の友人である柳田國男が、愛知県の伊良湖岬(いらごみさき)に滞在した際、浜に流れ着いた椰子の実を見つけました。
藤村は、柳田國男からその話を聞いたことを元に、この詩を書いています。