夏の日の歌
青い空は動かない、
雲
夏の真昼の静かには
タールの光も清くなる。
夏の空には何かがある、
いぢらしく思はせる何かがある、
焦げて図太い
田舎の駅には咲いてゐる。
上手に子供を育てゆく、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
山の近くを走る時。
山の近くを走りながら、
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
夏の真昼の暑い時。
作者と作品について
- 作者
中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907年(明治40年)~1937年(昭和12年)
山口県生まれ
- 作品
「夏の日の歌」は、詩集『山羊の歌』に収められています。
中也の詩は、まるで古き佳き日本映画のワンシーンのような詩が多いと思うのですが、これもまさにそう。
簡単な言葉ながら、映像が脳裏に浮かびます。
しかも、「母親に似て汽車の汽笛は鳴る。」という行が、二回も挿入されているんですよね。
この「母親」という言葉に、有無を言わせない力強さを感じるのは私だけでしょうか?
たぶんこれが「父親」だったら、違った印象の詩になるはずです。
私はこの詩から、泣き止まない赤ん坊を上手にあやしながら走っていく母親の姿を連想します。
いつの時代も、母は強しですね。