やがて秋……
やがて 秋が 来るだらう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう
――秋が かうして かへつて来た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……
やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――
作者と作品について
- 作者
立原 道造(たちはら みちぞう)
1914年(大正3年)~1939年(昭和14年)
東京生まれ
- 作品
「やがて秋……」は、詩集『暁と夕の詩』に収められています。
この詩集はタイトルの通り、10編の詩が、夕方、夜、そして朝と、時間を追って配置されています。
(ちなみに、「やがて秋……」は2番目の詩。夕ぐれ時ですね。
次々と読み進めていくと、だんだんと夜が深まって、10番目の詩が「朝やけ」になります)
道造は、ひとつひとつのソネットだけでなく、詩集全体の世界観にも心を配っていたことが感じられます。