秋の かなしみ
わがこころ
そこの そこより
わらひたき
あきの かなしみ
あきくれば
かなしみの
みなも おかしく
かくも なやまし
みみと めと
はなと くち
いちめんに
くすぐる あきのかなしみ
草の 実
実!
ひとつぶの あさがほの 実
さぶしいだらうな、実よ
あ おまへは わたしぢやなかつたのかえ
秋
秋が くると いふのか
なにものとも しれぬけれど
すこしづつ そして わづかにいろづいてゆく、
わたしのこころが
それよりも もつとひろいもののなかへくづれて ゆくのか
秋の日の こころ
花が 咲いた
秋の日の
こころのなかに 花がさいた
白い 雲
秋の いちじるしさは
空の 碧を つんざいて 横にながれた白い雲だ
なにを かたつてゐるのか
それはわからないが、
りんりんと かなしい しづかな雲だ
秋の 壁
白き
秋の 壁に
かれ枝もて
えがけば
かれ枝より
しづかなる
ひびき ながるるなり
ちいさい ふくろ
これは ちいさい ふくろ
ねんねこ おんぶのとき
せなかに たらす 赤いふくろ
まつしろな 絹のひもがついてゐます
けさは
しなやかな 秋
ごらんなさい
机のうへに 金糸のぬいとりもはいつた 赤いふくろがおいてある
作者と作品について
- 作者
八木 重吉(やぎ じゅうきち)
1898年~1927年
東京生まれ
- 作品
「秋の かなしみ」「草の 実」「秋」「秋の日の こころ」「白い 雲」「秋の 壁」「ちいさい ふくろ」は、いずれも第一詩集『秋の瞳』に収録されています。
詩集の題名に秋を冠していることもあって、秋の詩が多いです。
「草の実」は、あさがおの実に感情移入しつつも、「あ、お前は私じゃなかったんだっけ?」と我に返るような、さびしいなかにも、何ともいえない可笑しみを感じます。
「ちいさい ふくろ」は、ちいさなふくろの描写を通して、ここには直接描かれていない、ちいさな我が子へのいとしさが感じられます。