中原中也 「春と赤ン坊」「雲雀」(詩集『在りし日の歌』より)

春と赤ン坊

菜の花畑で眠つてゐるのは……
菜の花畑で吹かれてゐるのは……
赤ン坊ではないでせうか?

いいえ、空で鳴るのは、電線です電線です
ひねもす、空で鳴るのは、あれは電線です
菜の花畑に眠つてゐるのは、赤ン坊ですけど

走つてゆくのは、自転車々々々
向ふの道を、走つてゆくのは
薄桃色の、風を切つて……

薄桃色の、風を切つて
走つてゆくのは菜の花畑や空の白雲しろくも
――赤ン坊を畑に置いて

雲雀

ひねもす空で鳴りますは
あゝ 電線だ、電線だ

ひねもす空で啼きますは
あゝ 雲の子だ、雲雀奴ひばりめ

あーをい あーをい空の中
ぐるぐるぐると もぐりこみ
ピーチクチクと啼きますは
あゝ 雲の子だ、雲雀奴だ

歩いてゆくのは菜の花畑
地平の方へ、地平の方へ
歩いてゆくのはあの山この山
あーをい あーをい空の下

眠つてゐるのは、菜の花畑に
菜の花畑に、眠つてゐるのは
菜の花畑で風に吹かれて
眠つてゐるのは赤ン坊だ?

作者と作品について

  • 作者

中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907年(明治40年)~1937年(昭和12年)
山口県生まれ

  • 作品

「春と赤ン坊」「雲雀」は、詩集『在りし日の歌』に収められています。
この詩が書かれた約半年前に、中也の長男である文也くんが誕生しています。

「春と赤ン坊」では、いきなり菜の花畑のなかに赤ン坊が登場します。
その子の周りを、電線が鳴り、自転車が走り、薄桃色の風を切って、さらには菜の花畑が走り出す……
想像してみれば、目まいがするほど、シュールな光景です。
だって、眠っている赤ン坊を置いて、動いているのは世界の方なんですから。

その続きとして、「雲雀」を読むと、さらに面白いです。
目まいがするような世界が、さらにぐるぐる回っていって、しまいには赤ン坊が眠っていることさえ、疑問符で終わっています。

さて、この赤ン坊は、一体誰なのでしょう?
そもそも赤ン坊は、はじめから存在していたのでしょうか?

考えれば考えるほど、頭もぐるぐる回りそう。
どんな風にも解釈できますね。

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