星とたんぽぽ
青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
散ってすがれたたんぽぽの、
瓦のすきに、だァまって、
春のくるまでかくれてる、
つよいその根は眼にみえぬ。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
露
誰にもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。
もしも噂がひろがって
蜂のお耳へはいったら、
わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。
暦と時計
暦があるから
暦を忘れて
暦をながめちゃ、
四月だというよ。
暦がなくても
暦を知ってて
りこうな花は
四月にさくよ。
時計があるから
時間をわすれて
時計をながめちゃ、
四時だというよ。
時計はなくても
時間を知ってて
りこうな鶏は
四時には啼くよ。
作者と作品について
- 作者
金子 みすゞ(かねこ みすず)
1903年(明治36年)~1930年(昭和5年)
山口県生まれ
- 作品
私がみすゞさんの詩を初めて知ったのが、「星とたんぽぽ」でした。
かれこれ20年以上も前のことでしょうか。やなせたかしさんが編集長を務めていた雑誌『詩とメルヘン』で、みすゞさんの特集が組まれていて、そこで初めてこの詩を見たのです。
そのときの新鮮な驚きは、今でも覚えているし、この詩にはひときわ思い入れがあります。
見えぬけれどもあるんだよ、
見えぬものでもあるんだよ。
どこか、星の王子さまを思わせるようなメッセージが、心に響きました。
大切なものは、本当に目に見えないのだと思います。
「露」の優しさも、20年以上たった今でも胸に残っています。
花も、蜂も、そして語り手も、みんなが優しさを秘めていて、その優しさを、お互い口に出さなくても、無意識に無条件に信じているんですよね。それが本当にすごいです。
このブログは季節のカテゴリーで編集している関係上、「露」をどのカテゴリーにするか迷いましたが、春のカテゴリーに置くことにしました。
大正14年(1925年)、フランスにいる西條八十が選者となる特別童謡募集が、雑誌『童謡』でなされ、みすゞさんも応募しました。結果の発表は翌四月号で、みすゞさんの「露」が第一席に選ばれました。みすゞさんにとって、どんなに嬉しい出来事だったかと思います。
「暦と時計」は、視点がユニーク!読んでいて、なるほどと思いました。
自然の摂理をあるがままに見つめている、みすゞさんの視線には驚かされてばかりいます。