春の朝
雀がなくな、
いい日和だな、
うっとり、うっとり、
ねむいな。
上の瞼はあこうか、
下の瞼はまァだよ、
うっとり、うっとり
ねむいな。
足ぶみ
わらびみたよな雲が出て、
空には春が来ましたよ。
ひとりで青空みていたら、
ひとりで足ぶみしましたよ。
ひとりで足ぶみしていたら、
ひとりで笑えて来ましたよ。
ひとりで笑ってして居たら、
誰かが笑って来ましたよ。
からたち垣根が芽をふいて、
小径にも春が来ましたよ。
ふうせん
ふうせん持った子が
そばにいて、
私が持ってるようでした。
ぴい、とどこぞで
笛がなる、
まつりのあとの裏どおり、
あかいふうせん、
昼の月、
春のお空にありました。
ふうせん持った子が
行っちゃって、
すこしさみしくなりました。
明日
街で逢った
母さんと子供
ちらと聞いたは
「明日」
街の果は
夕焼小焼、
春の近さも
知れる日。
なぜか私も
うれしくなって
思って来たは
「明日」
作者と作品について
- 作者
金子 みすゞ(かねこ みすず)
1903年(明治36年)~1930年(昭和5年)
山口県生まれ
- 作品
金子みすゞさんは春生まれのせいか、春の詩が多いような気がします。
(ちなみに誕生日は、4月11日です)
みすゞさんの暖かな詩を読んでいると、こちらまでふんわりした日和に包まれているような気持ちになります。
みすゞさんの有名な詩「私と小鳥と鈴」には、「みんなちがって、みんないい。」という言葉があります。
冒頭で紹介した詩も、生きていることをまるごと喜び合っているような空気に、包まれているような感じですね。
「春の朝」はまさに、「春眠暁を覚えず」でしょうか(笑)
上の瞼は「あこうか」と言っているのに、下の瞼が「まァだよ」と答えているのが、面白いですね。
ちいさな瞼までおしゃべりしているのは、みすゞさんの詩ならではです。
「足ぶみ」は、青空を見て、足ぶみをして、笑いが広がって……という風に、春がだんだんふくらんでいく様子が描かれています。
春のふくらみが、こちらまで伝わってくるようです。
「ふうせん」は、ちょっぴり切ない詩ですね。
ふうせんの赤が、目に浮かぶようです。
「明日」は、希望が持てる詩ですね。
「母さんと子供」のやりとりも微笑ましく、それに続く「私」の思いも嬉しくなってきます。