中原中也 「また来ん春……」(詩集『在りし日の歌』より)

また来ん春……

また来ん春と人は云ふ
しかし私は辛いのだ
春が来たつて何になろ
あの子が返つて来るぢやない

おもへば今年の五月には
おまへを抱いて動物園
象を見せてもにやあといひ
鳥を見せてもにやあだつた

最後に見せた鹿だけは
角によつぽど惹かれてか
何とも云はず 眺めてた

ほんにおまへもあの時は
此の世の光のたゞ中に
立つて眺めてゐたつけが……

作者と作品について

  • 作者

中原 中也(なかはら ちゅうや)
1907年(明治40年)~1937年(昭和12年)
山口県生まれ

  • 作品

「また来ん春……」は、詩集『在りし日の歌』に収められています。

中也の長男の文也くんが、なんと2歳になったばかりの時に急死。
かなしみのなかにこの詩が生まれています。

象を見ても、鳥を見ても、「にゃあ」と言うのは、子どもならではの愛らしい仕草です。
もしかしたら、どこの家でもありそうな光景かもしれませんね。

でも、亡くなった我が子の、もう抱きしめられない姿として振り返ってみるとき、やるせなさがにじみ出てきます。
途方に暮れている中也の心が、そのまま伝わってきそうな詩です。

最終連には「此の世の光」が書かれていますが、光があるということは影があるということ。
その光景を遠くから描いている中也の、心の闇の深さが思えてなりません。

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