春も 晩く
春も おそく
どこともないが
大空に 水が わくのか
水が ながれるのか
なんとはなく
まともにはみられぬ こころだ
大空に わくのは
おもたい水なのか
おもひなき 哀しさ
はるの日の
わづかに わづかに霧れるよくはれし野をあゆむ
ああ おもひなき かなしさよ
しづかなる ながれ
せつに せつに
ねがへども けふ水を みえねば
なぐさまぬ こころおどりて
はるのそらに
しづかなる ながれを かんずる
春
春は かるく たたずむ
さくらの みだれさく しづけさの あたりに
十四の少女の
ちさい おくれ毛の あたりに
秋よりは ひくい はなやかな そら
ああ けふにして 春のかなしさを あざやかにみる
作者と作品について
- 作者
八木 重吉(やぎ じゅうきち)
1898年~1927年
東京生まれ
- 作品
「春も晩く」「おもひなき哀しさ」「しづかなるながれ」「春」は、第一詩集『秋の瞳』の終わりの部分に収録されています。
空がみずみずしくわき上がるような詩ですね。
重吉の詩は、こんな風に短めの詩が多いのが特徴です。
なお、「春」という題の詩は、第二種集『貧しき信徒』にもいくつかあります。