萩原朔太郎 「廣瀬川」「晩秋」(詩集『純情小曲集』『氷島』より)

廣瀬川

廣瀬川白く流れたり
時されば皆幻想は消え行かむ。
われの生涯らいふを釣らんとして
過去の日川邊に糸をたれしが
ああかの幸福は遠きにすぎさり
ちひさき魚はにもとまらず。

晩秋

汽車は高架を走り行き
思ひは陽ひざしの影をさまよふ。
靜かに心を顧みて
滿たさるなきに驚けり。
巷ちまたに秋の夕日散り
鋪道に車馬は行き交へども
わが人生は有りや無しや。
煤煙くもる裏街の
貧しき家の窓にさへ
斑黄葵むらきあふひの花は咲きたり。

作者と作品について

  • 作者

萩原 朔太郎(はぎわら さくたろう)
1886年(明治19年)~1942年(昭和17年)
群馬県生まれ

  • 作品

「廣瀬川」は詩集『純情小曲集』に収録。(詩集『氷島』にも再録あり。)
「晩秋」は詩集『氷島』に収められています。
朔太郎といえば、口語自由詩を完成させた詩人として知られていますが、上二つの作品は、格調高い文語体で書かれています。

「廣瀬川」には、秋という言葉は書かれていません。
でも、「白く流れたり」の白は、秋の色でもあり、夕暮れの色でもあるんですよね。
どこか人生の秋を感じさせる、深い作品です。

「晩秋」の「わが人生は有りや無しや」という問いかけも、心に沁みます。

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