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金子みすゞ 「もくせい」「もくせいの灯」「曼珠沙華」「花のお使い」「紋附き」(『金子みすゞ全集』より)

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もくせい

もくせいのにおいが
庭いっぱい。

表の風が、
御門のとこで、
はいろか、やめよか、
相談してた。

もくせいの灯

お部屋にあかいがつくと、
硝子のそとの、もくせいの、
しげみのなかにも灯がつくの、
ここのとおんなじ灯がつくの。

夜更けてみんながねねしたら、
葉っぱはあの灯をなかにして、
みんなで笑って話すのよ、
みんなでお唄もうたうのよ。

ちょうど、こうしてわたしらが、
ごはんのあとでするように。

窓かけしめよ、やすみましょ、
みんなが起きているうちは、
葉っぱはお話できぬから。

曼珠沙華ひがんばな

村のまつりは
夏のころ、
ひるまも花火を
たきました。

秋のまつりは
となり村、
日傘のつづく
裏みちに、
地面じべたのしたに
棲むひとが、
線香せんこ花火を
たきました。

あかい
あかい
曼珠沙華ひがんばな

花のお使い

白菊しらぎく黄菊きぎく
雪のような白い菊。
月のような、黄菊。

たあれも、たあれも、みてる、
私と、花を。
  (菊は、きィれい、
  私は菊を持ってる、
  だから、私はきィれい。)

叔母さんは遠いけど、
秋で、日和ひよりで、いいな。
花のお使い、いいな。

紋附もんつ

しずかな、秋のくれがたが
きれいな紋つき、着てました。

白い御紋は、お月さま
藍をぼかした、水いろの
裾の模様は、紺の山
海はきらきら、銀砂子ぎんまなご

紺のお山にちらちらと
散った灯りは、刺繍ぬいでしょう。

どこへお嫁よめにいくのやら
しずかな秋のくれがたが
きれいな紋つき着てました。

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作者と作品について

  • 作者

金子 みすゞ(かねこ みすず)
1903年(明治36年)~1930年(昭和5年)
山口県生まれ

  • 作品

みすゞさんの秋の詩で、花が描かれているものを中心に集めてみました。

まずは、「もくせい」「もくせいの灯」について。

「もくせい」の詩では、庭いっぱいに満ちている木犀の匂いに、風が躊躇しています。もしも風が御門から庭に入ってしまったら、匂いがかき消されてしまうからでしょうか?でも、風が入れば、匂いはあちこちに飛んでいけるんですよね。
「はいろか、やめよか、相談してた。」という言葉に、何とも言えない優しさを感じます。

「もくせいの灯」は、夜更けに木犀たちが笑っておしゃべりするという話が素敵です。
「窓かけしめよ、やすみましょ、みんなが起きているうちは、葉っぱはお話できぬから。」と話しかけているのは、お母さんでしょうか?
木犀への思いやりはもちろん、子どもを寝かしつけようという知恵も、陰ながら感じられて、なるほどと思います。

「曼珠沙華」は、地面に棲む人が焚いた線香花火が、曼珠沙華だといういう発想が豊かです!
みすゞさんの詩は、比喩が絶妙ですね。

「花のお使い」では、菊を持っている女の子が描かれています。
きれいなお花を持っていると、自分まできれいと思う気持ち、とてもよくわかります。女の子なら、だれもが感じることなのかもしれませんね。
そういえば小さい頃は、お使いに行くのも嬉しかったを、この詩を読んで思い出しました。

「紋附き」は、秋のゆうぐれが紋付きを着てお嫁にいくというのが、大らかで幻想的ですね。
みすゞさんは生前に、三冊の手帳に童謡集をまとめていて、「紋附き」は第一童謡集の『美しい町』に収められています。『美しい町』が完成したのは、まだ結婚する前です。
この「紋附き」を読むと、この詩を書いた後の、みすゞさんの不幸な結婚生活に思いが入ってしまい、切なくなります。
みすゞさんがもし長生きしていたら、どんな詩を残していたのでしょう。

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