シャガールと木の葉


貯金はたいて買ったシャガールのリトの横に
道で拾ったクヌギの葉を並べてみた

値段があるものと
値段をつけられぬもの

ヒトの心と手が生み出したものと
自然が生み出したもの

シャガールは美しい
クヌギの葉も美しい

立ち上がり紅茶をいれる
テーブルに落ちるやわらかな午後の日差し

シャガールを見つめていると
あのひととの日々がよみがえる

クヌギの葉を見つめると
この繊細さを創ったものを思う

一枚の木の葉とシャガール
どちらもかけがえのない大切なもの

流れていたラヴェルのピアノの音がたかまる
今日が永遠とひとつになる

窓のむこうの青空にこころとからだが溶けていく
……この涙はどこからきたのだろう



作者と作品について


  • 作者
谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
1931年(昭和6年)~
東京都生まれ

  • 作品
「シャガールと木の葉」は、同名の詩集『シャガールと木の葉』(2005年)に収められています。
「貯金はたいて買ったシャガールのリト」と、「道で拾ったクヌギの葉」の対比が見事。
一方は値段があって、ヒトの心と手が生み出したもので、一方は値段をつけられなくて、自然が生み出したものです。
どちらも美しいと肯定していることに、この詩の味わい深さがあると思います。

ところで俊太郎さんは、詩よりも音楽が好きだとか。
この詩のクライマックスでも、ラヴェルのピアノの音が生きていますね。

そういえば、音楽やこの詩も、ヒトの心と手が生み出したものです。
(ラヴェルの曲は、ラヴェルによって。この詩は俊太郎さんによって)

では、俊太郎さんがこの詩の最後でつぶやいている、涙はどこからきたのでしょう……

その答えに想いをめぐらすと、ヒトが生み出したものも、自然が生み出したものも、混然一体のような気がしてならないのです。
それはたとえば、今日が永遠とひとつになるような、青空にこころとからだが溶けていくような感覚なのかもしれません。

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