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宮沢賢治 「冬と銀河ステーシヨン」(『心象スケッチ 春と修羅』より)

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冬と銀河ステーシヨン

そらにはちりのやうに小鳥がとび
かげろふや青いギリシヤ文字は
せはしく野はらの雪に燃えます
パツセン大街道のひのきからは
凍つたしづくが燦々さんさんと降り
銀河ステーシヨンの遠方シグナルも
けさはまつに澱んでゐます
川はどんどんザエを流してゐるのに
みんなはなまゴムの長靴をはき
狐や犬の毛皮を着て
陶器の露店をひやかしたり
ぶらさがつた章魚たこを品さだめしたりする
あのにぎやかな土沢の冬の市日いちびです
(はんの木とまばゆい雲のアルコホル
 あすこにやどりぎの黄金のゴールが
 さめざめとしてひかつてもいい)
あゝ Josef Pasternack の指揮する
この冬の銀河軽便鉄道は
幾重のあえかな氷をくぐり
(でんしんばしらの赤い碍子と松の森)
にせものの金のメタルをぶらさげて
茶いろの瞳をりんと張り
つめたく青らむ天椀の下
うららかな雪の台地を急ぐもの
(窓のガラスの氷の羊歯は
 だんだん白い湯気にかはる)
パツセン大街道のひのきから
しづくは燃えていちめんに降り
はねあがる青い枝や
紅玉やトパースまたいろいろのスペクトルや
もうまるで市場のやうな盛んな取引です

(一九二三、一二、一〇)
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作者と作品について

  • 作者

宮沢 賢治(みやざわ けんじ)
1896年(明治29年)~1933年(昭和8年)
岩手県生まれ

  • 作品

「冬と銀河ステーション」は、同名の詩集である『春と修羅』の一番最後に収められています。
(賢治自身は、詩集を呼ぶことは好まず、心象スケッチと言っています)

どこか『銀河鉄道の夜』を思わせる詩ですね。
土沢は、岩手軽便鉄道の土沢駅のこと。
紅玉やトパーズといった石が出てくるのも、「石ッコ賢さん」と呼ばれるくらい鉱物が大好きだった、賢治らしいと思います。

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