秋
こころがたかぶってくる
わたしが花のそばへいって咲けといえば
花がひらくとおもわれてくる
果物
秋になると
果物はなにもかも忘れてしまって
うっとりと実のってゆくらしい
壁
秋だ
草はすっかり色づいた
壁のところへいって
じぶんのきもちにききいっていたい
障子
あかるい秋がやってきた
しずかな障子のそばへすりよって
おとなしい子供のように
じっとあたりのけはいをたのしんでいたい
木
はっきりと
もう秋だなとおもうころは
色色なものが好きになってくる
あかるい日なぞ
大きな木のそばへ行っていたいきがする
素朴な琴
この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐えかね
琴はしずかに鳴りいだすだろう
響
秋はあかるくなりきった
この明るさの奥に
しずかな響があるようにおもわれる
秋のひかり
ひかりがこぼれてくる
秋のひかりは地におちてひろがる
このひかりのなかで遊ぼう
作者と作品について
- 作者
八木 重吉(やぎ じゅうきち)
1898年~1927年
東京生まれ
- 作品
「秋」「果物」「壁」「障子」「木」「素朴な琴」「響」「秋のひかり」は、いずれも第二詩集『貧しき信徒』に収録されています。
第一詩集と同じく、第二詩集にも秋の詩が多いです。
「素朴な琴」は、重吉の詩のなかでも有名で、私も好きな作品です。